所長挨拶

山極壽一 総合地球環境学研究所 所長から皆様へ
総合地球環境学研究所長 山極壽一

山極壽一
総合地球環境学研究所 所長

総合地球環境学研究所(地球研、Research Institute for Humanity and Nature)は、2001年4月に設立された地球環境学の総合的研究を推進する大学共同利用機関です。そのモットーは「地球環境問題の根源は、人間の文化の問題」であって、大学共同利用機関法人人間文化研究機構に属しながら、自然科学的なデータ基盤を前提にしつつ、人文・社会科学的な視野を幅広く取り入れた研究を実施してきました。

今、地球は多くの難題を抱えています。人口の急増、大都市化、大量の工業生産物、人と物の急速な移動によって、二酸化炭素の増加、温暖化、海洋の酸性化、熱帯雨林の減少といった地球環境の重大な変化が起こっています。新型コロナウイルスによるパンデミックは、自然への人為による大規模な介入がきっかけとなり、近年の人口の急増とグローバルな人と物の動きが引き起こした人災と言っても過言ではないでしょう。プラネタリーバウンダリーという地球にとっての安全域や程度を表す9つの指標のうち、生物多様性(種の絶滅率)、窒素やリンの循環がすでに限界値を超えていると指摘されています。そこで、2015年に開かれた第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、産業革命前と比べて世界の平均気温上昇を「2度」に抑える協定が採択されました(パリ協定)。加えて、平均気温上昇「1.5度」を目指すとされ、締約国は削減目標を示すことが義務付けられています。日本は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると宣言しています。

2015年にはもう一つ、国連で重要な決定がなされました。2030年までの長期的な開発の指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)が採択されたのです。誰ひとり取り残さないことを目指し、先進国と途上国が一丸となって17の達成すべき目標と169のターゲット(具体的目標)で構成されています。日本はSDGsの課題先進国であり、いくつかの分野では課題解決先進国とさえ言われています。しかし、これらの目標を達成するのは容易なことではなく、さまざまな努力や技術革新が必要です。

とりわけ、これらの問題解決には自然科学的な数値目標や科学技術だけではなく、人々の暮らしを大きく変える社会のあり方が問われなければなりません。事実、新型コロナウイルスによる影響で人々の間の社会的、経済的格差は広がり、自国優先主義の傾向が強まっています。情報が人々をつなぐデジタル社会は効率化、均質化へと人々を先導し、地域や人々の個性が失われつつあります。SDGsには文化という視点が弱く、人々の衣食住に反映して地域の個性を作り、人間のアイデンティティとなる重要な課題が置き去りにされていると感じています。

それを肝に銘じて、地球研は地域の文化を大きな足掛かりにするとともに、グローバルコモンズの概念を拡張しながら「未来可能性」を探求し提唱していかねばなりません。これまでの20年間で、地球研は35の研究プロジェクトを実施し、それらの研究成果を基にさまざまな提言を行ってきました。これからはそれらの成果がどのようにして地域社会や国の政策、国際的な活動に実践されたかを検証するとともに、地域から地球レベルでのマルチスケールで複合的な環境問題の解決と未来可能な社会を目指す超学際研究(Transdisciplinary Research)を推進します。超学際研究とは、課題に対処するために分野を超えて研究者、企業、政府、自治体、NGOなどが集い、利害関係者も交えて多元的な解決を図る研究活動です。現代は「知識集約型社会」と呼ばれます。しかし、地域には情報にならない知恵や伝統的な考え方がたくさん眠っています。それを掘り起こし、地域の風土にあった未来社会のデザインを描くことが重要になります。

これまで地球研が実施してきたプロジェクトや現在進行中のテーマには、自然科学と人文・社会科学が有効に織り込まれ、世界が注目する大きな成果を挙げてきました。安成哲三所長をはじめ多くの方々のご努力により、地球研が世界的プロジェクトのフューチャーアースの事務局を務め、KYOTO地球環境の殿堂を主導するなど、国際的な人間環境学の拠点となってきました。広報室、IR室、国際出版室も完備しました。この路線をしっかりと受け継ぎ、未来の学術と社会の在り方を見据えながら地球研の存在意義を世界に示していこうと思います。

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